2006/10/25 第075回 - 神谷 要 氏

第75回汽水域懇談会

11月14日(火曜日)夕方より第75回汽水域懇談会を行います。皆様お誘い合わせの上、ご参加下さいますようお願い申し上げます。

 

『水鳥と水生植物の相互関係について』

神谷 要 氏 米子水鳥公園 指導員

今回話題を提供していただくのは、米子水鳥公園の神谷要さんです。神谷さんはこの公園つばさ池17haの環境管理を任され、水草と水鳥と水質の関係について研究しながら、この池の保全に取り組んできました。また、1997年には発信機を用いたコハクチョウのわたり調査、2001年にはロシア・レナデルタにおいてコハクチョウの首輪標識調査を実施し、米子水鳥公園だけでなく、フライウェー湿地の保全という観点から、帯状につながる湿地の保全を目指しています。2002年からは、東アジアガンカモ類重要生息地ネットワーク国内コーディネイターも務めています。

日時:平成18年11月14日(火曜日)午後5時より1時間程度
場所:島根大学汽水域研究センター2階演習室(201)


発表の概要:
リュウノヒゲモPotamogeton pectinatus L.は,ヒロムシロ科ヒロムシロ属の沈水植物で,全国の湖沼,河川等に生育し,とくに汽水性の水域によく現れる(國井1995).花期は7〜9月の水媒花で,秋に種子を形成する.また,夏期より地下に大きさ4〜8mmの塊茎も形成する(角野1994).リュウノヒゲモの塊茎は栄養価が高く動物の餌となり,水鳥(大滝・石戸1980)やコイ(Hootsmans et al.1996)などが餌とすることが分かっている.このリュウノヒゲモは,日本国内において環境庁(1997)の指定するレッドリストの絶滅危惧B類に指定され,生息地が汽水域であるために国内での産地はきわめて限定されているとされている(角野1997).
リュウノヒゲモに関する研究は,個体群の一年間の現存量の変化を追った研究(Yadav et al.1987)と繁茂に関する長期的な研究(Berg1998),季節的な光―光合成能力の変化を調べた研究(Bijl et al.1989;Menendez and Sanchez1998)などがある.
また,水鳥との関わりに関する研究が多く,コハクチョウ(Cygnus columbianus bewickii)が渡りのエネルギーとして利用するリュウノヒゲモの塊茎の被食量についての研究(Beekman1991;Idestam-Almquist1998)や水鳥が塊茎を食べる季節を調べた研究 (Bart and Drent1998)が進められた.これらの研究は,水鳥にとってリュウノヒゲモの重要性を解明した.しかし,リュウノヒゲモが水鳥の捕食に対してどのような生態的対応をしているかについては,生残する塊茎による回復があるために影響しないとする意見(Beekman et al.1991)や,成長に非常に大きな影響を受けるとする意見(Idestam-Almquist1998)など定った見解は示されていない.これは,これらの調査が,水鳥の飛来する短い期間だけに区切ったり,長期的な影響を調べるとしても年に数度の調査に限られていたためであった.
そこで本研究では,リュウノヒゲモ群落に水鳥の飛来できない保護区と水鳥が入ることが可能な非保護区を設置して,両区の現存量の推移を比較及びt-検定をした.これにより,リュウノヒゲモを被食から保護した区域では,翌年の春の生育・展開がきわめて早く6月には現存量のピークをむかえた.これに対して非保護区の現存量は,春先の生育が保護区に比べ遅れたが,そのピークは保護区と有意差(P>0.85)がなかった.
また,保護区・非保護区の種子密度を比較したところほとんどの月で両区に有意差が見られなかったが,リュウノヒゲモの種子結実月である1999年8月のみ保護区よりの方が非保護区の方が有意(P<0.01)に種子数が多かった.しかし,両区の種子の現存量のピークを比較すると有意な差(P>0.25)はなかった.また,この種子を水鳥がリュウノヒゲモを被食している証拠として水鳥の糞中よりリュウノヒゲモの種子を確認した.
これらのことより,リュウノヒゲモは,水鳥によって被食を受け,これによって翌年の植物体の成長に影響がおよんで現存量のピークが遅れることが予測された.ただし,そのピークの現存量は,保護された区域と同等の回復を見せた.これは,リュウノヒゲモが他の沈水植物に比べ高い光-光合成速度(33.9 mg O2/g /h)を持っているためであり,これにより水鳥に被食を受けても群落を回復することができた.また,被食による対応としてリュウヒゲモは,種子数を増やして水鳥に種子分散をさせていることが示唆された.
また,水質は,冬期にCOD,クロロフィルa量,S.S.の値が上昇し,水鳥も冬期に多く観察された.
これらの値を,多変量解析の主成分分析にかけたところ,水温に対して正の相関をとる項目と負の相関をとる項目の二つのグーループにわかれた.この結果より調査地においては,冬期と夏期において,二つの生態系が交互に生じており,富栄養湖である調査地生態系を維持するのにリュウノヒゲモと水鳥が重要な役割をしていることが推測された.