第52回汽水域懇談会

10月7日(火曜日)夕方より第52回汽水域懇談会を行います。皆様お誘い合わせの上、 ご参加下さいますようお願い申し上げます。

『サンゴ礁魚類の個体群動態・捕食圧・多種共存機構 -パッチ状ハビタットの連続性の影響-』

話題提供:名波 敦 博士 水産工学研究所・水産土木工学部・環境分析研究室
名波博士は魚類生態学がご専門です。今回はサンゴ礁魚類の生態についてお話していただきます。

日時:10月7日(火曜日)午後5時より1時間程度
場所:島根大学汽水域研究センター2階演習室(201)

新進気鋭の若手研究者から魚類の個体群動態や群集生態などに関する興味深いお話が聞けるものと思います。皆様のご来聴をお待ちしております。


52th ReCCLE Seminar

【はじめに】魚類にとってサンゴ礁域の環境は,パッチ状ハビタット(サンゴ群体)が様々な 空間分布をしている生息場所と見なせる。パッチ状ハビタットの空間分布は大きく2つにタイ プ分けされる:(1)パッチが互いに近接している状態(連続礁)と(2)パッチが互いに離れ孤立し ている状態(孤立礁)の2タイプである。本発表では,連続礁と孤立礁に生息しているサンゴ 礁魚類の生息場所選択,個体群動態,空間分布,捕食圧および単位面積あたりの種数・個体数 を比較し,サンゴ礁魚類の群集構造と動態に及ぼすパッチ状ハビタットの連続性の影響につい て考察する。
【生息場所選択・個体群動態・空間分布】サンゴが連続的に分布し被度が高い岩礁礁原(以 下,連続礁)と,サンゴが孤立して集まっている砂礫底(以下,孤立礁)に調査区を設置し, 2年間観察を行なった。その結果,以下の2点が示唆された:(1)連続礁では生息場所の質・量 ともに豊富なため,魚類は種ごとに最も適した場所を選択できる。また,魚類は一つのサンゴ 群体に集中せず,比較的均一に分布する。(2)孤立礁では生息場所の質・量が限られているため, 最も適した場所を選択できる余裕が少なく,条件の悪い生息場所でも魚類は利用し,その結果 多種多個体が集中分布してしまう。
【捕食圧】魚類の集中度が異なれば,それらを捕食する魚類にも影響があるかも知れない。そ こで,サンゴ群体の空間配置の違い(連続分布か孤立しているか)が,魚類の捕食圧に及ぼす 影響を人工サンゴを用いた実験で検証した。その結果,人工サンゴから再移動する個体数は, 岩礁礁原に設置した人工サンゴの方が多かった。幼魚の死亡率は,砂礫底で高く,密度が高い ほど高かった。以上のことから,サンゴが孤立していて高密度であるほど,幼魚は捕食者から 狙われやすくなり,その結果死亡率が高まることが示唆された。一方,サンゴが連続分布して いれば,一時的に高密度に集中していても,再移動により捕食を回避している可能性が示唆さ れた。
【単位面積当たりの種数・個体数】サンゴ群体の空間配置の違いが,魚類の蝟集効果に及ぼ す影響をサンゴの移植実験により検証した。その結果,実験開始直後から,蝟集した魚類の種 数および個体数は砂礫底で多かった。
【考察】以上の結果から,魚類群集を形成する生態的要因について,以下の仮説が示唆された: (1)岩礁礁原では住み分けによって多種が共存し,捕食圧が高くないため,個体群動態や群集構 造は安定する傾向にある。一方,砂礫底では住み分けが起きるほど生息場所が豊富でないため, 各個体が集中しやすく,さらに高い捕食圧も加わり,個体群動態や群集構造が不安定になる。